誤検知を抑制したクマ検出システムの実現手法について
2026/02/02
目次
第1章. はじめに
近年、野生動物による人間社会への影響が増加しています。特にクマの出没は、住宅地や農村部において住民の安全や財産に直接的な脅威となっています。従来の監視カメラや警報システムには、クマの検知精度や運用コストなどの課題がありました。こうした背景から、AI技術を活用したクマ検出システムの開発が進められています。
熊はいつ現れるかわからないため、AIによる監視は常時稼働が必要です。しかし、多くの場所を監視する場合、コストの抑制も重要な課題となります。また、誤検知が多発すると監視担当者の負担が増大するため、誤検知の少ない高精度な検知が求められます。これらの課題を同時に解決し、実用的なシステムを構築することが急務です。
本記事では、エッジAIとクラウド側で動作する生成AI(大規模言語モデル:LLM)を組み合わせることで、誤検知を抑制しつつコスト上昇も防ぐソリューションをご紹介します。
第2章 システム構成について
2-1. システム全体の概要
本システムは、複数の技術要素が連携することで高精度かつ効率的な熊検知を実現しています。
まず、住宅地や農村部に設置された監視カメラが映像を取得し、エッジAIデバイスが一次的な物体検知を行います。エッジAIは消費電力や発熱などの制約があるため、簡易的な検知にとどまりますが、熊など特定の動物や物体が検知された場合、スナップショット画像や短時間のビデオクリップをクラウド上で動作する映像システムへ送信します。
映像システムは、受け取った映像データをクラウドAI(生成AI)へ転送し、より高精度な解析を実施します。クラウドAIは、エッジ側で検知された映像が本当に熊であるかどうかを判定し、誤検知と判断されたイベントを除外したうえで、実際に熊が検知された場合のみユーザーへ通知します。
2-2. アムニモの製品・サービスを用いた熊検知システムの実装例
上記の構成による熊検知システムは、アムニモが既に販売している製品やサービスと、AWSなどの一般的なクラウドサービスに付属する生成AIとの組み合わせで実現することが可能です。すなわち、エッジAIデバイスであるAX11や屋外版のAX21、映像やイベント情報をハンドリングする『統合ビデオ管理システム』、デバイスの保守運用やDOポートの制御を行なう『デバイス管理システム』をベースとして、エッジ側とクラウド側に簡易な連携ロジックを実装し、AWS等に付属する生成AIと連携するという構成で、実現可能です。
この構成においては、エッジAIはカメラ画像に対して物体検出を行い、熊を検知した場合にはイベント通知と映像を統合ビデオ管理システムに送信します。統合ビデオ管理システムは、生成AIに映像の再解析を要求し、熊が撮影されているか、誤検知かを検証します。熊が撮影されていると判定された場合、オペレータにアラート信号を送出し、デバイス管理システムを経由して現地の警報灯を起動します。

図1:クマ検知システムの構成例
第3章 エッジAI (AX11) の役割と技術的特徴
3-1. 物体検出モデルの概要
エッジAIデバイス(AX11)は、監視カメラから取得した映像をリアルタイムで解析し、クマなどの特定動物や物体の動きを検知します。物体検出モデルは、AIによる画像認識技術を活用し、映像内の特徴点や動きから対象物を抽出します。
3-2. 消費電力・発熱などの制約
エッジAIは現場に設置されるため、消費電力や発熱、設置スペース、耐環境性など厳しい制約があります。AX11はAIアクセラレータとして低消費電力なチップを採用しており、他の機種よりも発熱量が少なく、屋外設置にも対応しています。しかし、AIの処理能力には限界があり、設置場所ごとに精度を上げるためには多くの画像を用いた再学習が必要となるため、この装置単体で高精度化を図るのはコスト面で非効率です。
3-3. 低精度検知の理由とメリット
エッジAIは高精度な解析を行うには計算資源が不足しており、再学習には膨大なコストと時間がかかるため、一次的な低精度検知にとどめています。しかし、これによりクラウドAIへの映像送信頻度を最適化し、通信コストやクラウド解析費用を抑えることができます。エッジ側で「クマらしき動き」が検知された場合のみ、クラウド側で詳細解析を行う仕組みです。
第4章 クラウドAI(生成AI)による高精度解析と制御
4-1. 生成AIの技術概要
クラウドAIは、エッジAIから送られてきた映像データを高精度に解析します。生成AIはディープラーニング技術を活用し、映像内の動物種や行動パターンを識別します。これにより、「本当に熊が写っているか」「危険な状況かどうか」を高い精度で判定できます。
4-2. 高精度判定の仕組み
クラウドAIは、エッジAIによる一次検知結果をもとに、複数の解析モデルを組み合わせて最終判定を行います。例えば、熊の特徴的な動きや体形、周囲の環境情報などを総合的に評価し、誤検知を防ぎます。判定結果はユーザーへ通知され、必要に応じて現場対応が促されます。
第5章 統合ビデオ管理システム・デバイス管理システムの役割
5-1. 映像データの受け渡しと管理
統合ビデオ管理システムは、エッジAIの検知イベントと共に送られてきたスナップショット画像やビデオクリップを受け取り、クラウドAIへ転送します。また、クラウドAIからの要求により、エッジデバイス側で録画されている映像を取得して提供するなど、クラウドAI/AIエージェントに対して映像を提供する役割も担います。
5-2. デバイス管理システムによる制御と稼働監視
デバイス管理システムは、AIエージェントからの要求により現地側の警告灯を点灯させたり、ブザーやサイレンを鳴動させたりするなど、現地デバイスの動作を制御します。また、エッジAIデバイスやカメラ、周辺機器などを一元的に管理し、稼働監視による故障検知や、必要に応じた設定変更・制御指示なども行います。
第6章 今回の実現方式のメリットについて
6-1 検知精度に関するメリット
本方式では、エッジAI側で検知感度を高め(精度が低い場合でも検知イベントを発生させる)、生成AIで再検証することで誤検知を減らし、検知精度を高く保ちます。これにより、検知漏れが少なく、誤検知も抑えられるシステムを実現できます。
6-2 常時解析の運用コストに関するメリット
エッジAIは現地デバイスに搭載されたAIアクセラレータで動作し、常時稼働しても発生するコストは固定的です。クラウドAI(生成AI)は処理回数に応じてコストが発生しますが、エッジAIのフィルタリングにより、熊らしき映像のみがクラウドAIで解析されるため、全映像を常時解析する方式と比べて大幅なコスト削減が可能です。これにより、熊の出没が想定される地域でも常時解析が現実的となり、システムの実用性が高まります。
第7章 今後の展望と課題
熊は一般的に昼間に活動しますが、近年は夕方や夜間にも出没する例が増えています。最近の監視カメラには、暗所でも高感度で撮影可能な普及品も登場しています。住宅地など街路灯がある場所では、こうしたカメラで十分な映像が得られると考えられます。一方、山間部など照明が全くない場所ではサーマルカメラの利用が想定されますが、その場合はエッジAI・生成AIともにサーマル映像に対応したAIが必要となるため、現状では適したAIが用意されていない可能性があります。設置場所ごとに最適なカメラを選定するため、実証実験が重要です。
第8章 まとめ
熊による被害は一般市民の生活にも影響を及ぼしており、早期に対策が必要です。本記事では、エッジAIとクラウド側で動作する生成AIの組み合わせによる、検知漏れが少なく誤検知も抑制された熊検知システムの構成例をご紹介しました。今回ご紹介した内容は、既存の技術要素の組み合わせで構成されているため、実証実験レベルであれば大規模な開発を行わずに実現可能と考えられます。 今後さらに多くの場所で熊対策が検討されると予想されますが、本システムがその一助となることを願っています。
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